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文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
そんな読者のために、人気小説の翻訳書に見る誤訳・悪訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画『007は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアルド・ダール(Roald Dahl)の短編から任意に選ぶ。いずれも原文で10ページ程の短いものが中心だから、読者も自分で訳してみて、この解説を参考に市販訳との優劣を競ってみてはいかがだろうか。
冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
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誤訳度: |
*** |
致命的誤訳(原文を台無しにする) |
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** |
欠陥的誤訳(原文の理解を損なう) |
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愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲) |
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Mr feasey「フィージイ氏」
最近、田口俊樹の新訳が出たので、間違い箇所がどう直っているのか見てゆく。
前半部が田村訳、矢印のあとの後半部が田口訳
●は両者とも間違いの箇所(今回はなし)
ページは田村訳、田口訳、英語原文の順 |
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(P476-223-650)動詞***
“いいですかい、あんた、いい犬を手に入れたからには、だれにも見せちゃいけませんぜ。この犬を知ってる人間は、何千といるんだからね。できるだけ用心してかかってくれなくちゃ。そうすりゃ、あんた、五十ポンドももうけられるんだ”
→—いいだろう。売ってやるよ。ただし絶対に誰にもそいつだと気づかれないように。その犬を知ってるやつはごまんといるからな。気をつけるんだ、いいな。じゃあ、五十ポンドだ。
All right, he said. You can have him, but for Christsake don’t let anybody recognize him. There’s thousands of people know this dog, so you’ve got to be careful, see。And it’ll cost you fifty pound.
(コメント)
recognize は「然るべきものを然るべきものとして認める」こと。cost は「費用が掛かる」。 |
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(P476-223-650)動詞***
おれはほかの犬たちをレースにださなければならないんでね。フィージイじじいに十ポンド払い込んであるのよ。
→だってな、レースに出るほかの犬はおれが自分で選んだんだから。フィージイ爺さんに十ポンド払って。
… because I picked the others in the race myself. Cost me a tenner to old Feasey.
(コメント)
いかさまをやるのに、自分で全部犬をかき集めた、ということ。 |
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(p482-230-653)副詞**
「一対一 ウイスキー!…」
→「…二倍、ウイスキー!…」
Even money Whisky!
(コメント)
掛け金と同額の配当ということ。even は「ちょうど、まさしく」、money は「賞金」。 |
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(p484-232-654)名詞*
「さあ、あんたはもう一枚三ポンド対七十五ポンドで買ったわけだ」と彼は言った。「だけど、こんどは、これがさいごだぜ」
→「いいだろう。もう一枚、七十五対三だ」と彼は言った。「だけど、それで終わりだ」
‘All right, you got one more seventy-five to three,’ he said. ‘But that’s the lot.’
(コメント)
これ以上、同じ対象物と倍率は適用されない、ということ。 |
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(p484-233-655)名詞句***
犬クロウドは三十倍ほどにはなるといってたが。
→クロードは三十犬身差で勝つと言っていた。
Claud had said he’d win it thirty lengths.
(コメント)
名詞句が副詞句として使われている。length はここでは、馬身ならぬ犬身。 |
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(p488-236-656)前置詞*
「七十八ポンドの払戻し」
→「払った金の三ポンドと合わせて七十八ポンドの払戻しだ」
‘Seventy-eight pounds to come on this one.’
(コメント)
one は「元金」の意。配当75対掛け金3の割合だから、併せて78ポンドということ。 |
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