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文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
そんな読者のために、人気小説の翻訳書にみる誤訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された 『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画「007は二度死ぬ」の脚本家でもあるロアルド・ダール (Roald Dahl)の短編集「キス・キス」(KISS, KISS)。全11編を月二回、一年かけて点検してゆく。俎上に乗せる邦訳は開高健・訳『キス・キス』(早川書房)。
冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、
解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。 |
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誤訳度: |
*** |
致命的誤訳(原文を台無しにする) |
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** |
欠陥的誤訳(原文の理解を損なう) |
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愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲) |
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天国への登り道
[ストーリー] フォスター夫妻はニューヨークに住む富豪。なに不自由ない暮らしに見えるが、夫の底意地の悪さに妻は辟易している。その妻がパリにいる娘に会いに出かける当日のこと。フライトの時間に間に合わないと焦る妻は、まだぐずぐず屋敷内にいる夫を呼びに玄関まで来た。そこで、夫が乗っているはずの奥のエレベータが中空で停まっているのに気づく。瞬時ためらったが、知らないそぶりで、そのまま夫を置き去りにして空港へと急いだ。それから3週間。妻が自邸に戻ってみると、どうやら夫は…。 |
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●①形容詞:**、 ②形容詞:*、 ③形容詞:***
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フォスター夫人には奇妙なくせがある。何かの時間に遅れると思った途端、目の隅がピクピクと痙攣するのだ。このくせをよく知っているはずの夫が、わざと遅れようとするかのように見受けられることも時々あった…。という内容に続く記述。
Assuming (though one cannot be sure) that the husband was ①guilty, what made his attitude ②doubly unreasonable was the fact that, with the exception of this one small irrepressible foible, Mrs Foster was and always had been a good and ③loving wife.
本当にフォスター氏が、こんなことを①企んだのだとしたら(これとてはっきり断言できるわけではないが)、②この態度たるや、まさに非難さるべきものだ。というのは、このささいな、不可抗力のやまいが玉にキズで、その他の点では、フォスター夫人はまことに申し分ない、③可愛い奥さんだったからである。
[解説]
assuming that は「…だと仮定して」(= if)。
guilty は、この場合「生じたまずい事に対して責任がある」(→非難されて然るべき)の意。つまり、「本当にわざと意地悪していること」。
doubly は「一層」、unreasonable は「不当な、不合理な」。
loving は、他動詞の現在分詞形の形容詞「人を愛する」(この場合、人とは夫のこと)。さらにそれが形容詞化した「愛情に満ちた」。 |
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全文の直訳 |
「(確かとは言い切れないが)夫に責任があると仮定して、その夫の態度を一層不当にしたものは、このささいな抑制できない欠点の例外はあるが、フォスター夫人はその時も、それまでもずっと良き愛情あふれる妻であったことだ。」 |
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全文の意訳 |
「どうも夫は確信犯であるように思えるのだが、このささいな欠点を別にすれば、フォスター夫人は申し分ない妻であることが、夫の分をさらに悪くする。」 |
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●間投詞:* |
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今日は、フォスター夫人がパリにいる娘と孫に会いに行く日。その間、夫はクラブに宿泊するので、召使一同が荷物のまとめに大童となっている。表面はともかく、夫婦の間は決してうまくいっているわけではない。妻が夫に、半分はお愛想で尋ねる。
‘Will you write to me?’ she asked. ‘I’ll see,’ he said. ‘But I doubt it. You know I don’t hold with letter-writing unless there’s something specific to say.’
「お手紙はくださいます?」「そのつもりだが」と彼はいった。「どうかな。なにかよほど重要なことでもないかぎり、わたしが手紙を書かんことぐらい、わかっておるはずだろう」
[解説]
I’ll see は、即答をさける言い方「考えておこう」。 |
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●仮定:*** |
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‘Be sure’ to miss it now if it goes. We can’t drive fast in this muck.’
飛行機がでるとしたら、間違いなく乗りおくれたろうよ。この霧じゃ、車のスピードをあげるわけにもいくまい。
[解説]
if 節が現在形、帰結節が現在形なので、仮定法でなく単なる仮定。この if には even の気持ちが入っている。
Be sure to は、You are sure to の略形。
「飛行機が出るにしても、今じゃ間違いなく乗り遅れるさ」 |
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●動詞:** |
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Other lights, some white and some yellow, kept coming out of the fog toward them, and there was an especially bright one that followed close behind them all the time.
ほかの車の白や黄色のヘッドライトが、霧の中からこちらへと向かってくる。そして、そのずっとうしろには、ひときわ目立つ大きなライトが見えていた。
[解説]
元訳では、「ひときわ目立つ大きなライト」は何なのだろうかと考えてしまう。
them は other lights でなく車の中のフォスター夫妻のこと。対向車線から次々ヘッドライトが流れてくる一方、後ろから(渋滞のため)ぴったり後続車がついてくる、その灯りがまぶしいのだ。
all the time(四六時中)、close behind (ぴったりうしろに)。
bright one の one は、light。「後ろにはずっとぴったり」 |
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●仮定法:* |
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‘And what’s wrong with combs, may I ask?’ he said, furious that she should have forgotten herself for once.
「櫛で悪かったな、え」一瞬、夫人がわれを忘れるほど、良人は怒った。
[解説]
so 〜 that の so が略されている。
forget oneself は、この場合「気を失う」「呆然自失する」の意。
should have forgotten は
(1) |
過去の反実仮想(《本来であれば》気を失ってしまったことだろうに) |
(2) |
過去の推量(気を失ったのだろう)、 |
のうち(1)。
「彼女が意識を失ってしまいかねなかったほど怒って、彼は言った」のだ。
for once は、「一瞬」でなく、「この場限りは(いつもと違って、例外として)」。 |
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意訳 |
「その言い方があまりに凄かったので、このときばかりは夫人も思わず気を失いかけた」 |
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●イディオム:* |
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Arriving at Idlewild, Mrs Foster was interested to observe that there was no car to meet her. It is possible that she might even have been a little amused.
空港に着き、フォスター夫人は迎えの車が来ていないのを見て、どきどきした。いや、むしろ、それがうれしい気分だったのかもしれない。
[解説]
be interested to do(…に興味をもつ)。
observe that は、…ということに気づく。
「来ていないのがわかって、興味がわいた。」
例: |
I’m interested to know more about it.(そのことについてもっと詳しく知りたいと思います)
I was interested to learn the fact.(その事実を知って興味がわいた) |
* to 不定詞が「目的」か「結果」かは文脈による。 |
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