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第27回 (7月上旬号) 『善女のパン』誤訳編
by 柴田耕太郎
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 文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
 そんな読者のために、人気小説の翻訳書にみる誤訳・悪訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。今回の題材はO・ヘンリー(O Henry)の短編『善女のパン』(WICHES’ LOAVES)。俎上にのせる邦訳は清野暢一郎・訳『オー・ヘンリー珠玉選』(英光社)より。
 冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。

誤訳度: *** 致命的誤訳(原文を台無しにする)
** 欠陥的誤訳(原文の理解を損なう)
愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲)
善女のパン WICHES’ LOAVES
[ストーリー]
ミス・マーサは街角で小さなパン屋を営んでいる。時々堅いパンを買いにくる芸術家らしい中年の男が気になった。或る時、マーサは彼の求める堅いパンの中に、こっそりバターを挟んでやった。きっと感謝されると思ったのに、後で男はものすごい剣幕で怒鳴り込んできた。消しゴム代わりに使っていた堅パンにしみこんだ油が、制作中の製図をめちゃめちゃにしてしまったのだった。
名詞:***
Two or three times a week a customer came in in whom she began to take an interest.
He was a middle-aged man, wearing spectacles and a brown beard trimmed to a careful point.
 週に2、3度ある客がやって来たが、彼女はその男に興味を持ちだした。その男は中年で眼鏡を掛け、頬髯はていねいに刈り込んで先が尖っていた

[解説]
careful は「注意して誤りなどの起きないように気を配ること」。point はたしかに「先端」「尖った先」の意味もあるが、(1) careful とのコロケーション (2)冠詞が a であること (3) to は「刈り込んで先が尖る」との結果には読めない、ためここでは採れない。この to は限界・程度を示す、a は不確定をあらわす、point は時点・段階の意味、と考える。「一種、注意深く細部まで気を使った段階まで、顎鬚は手入れされていた」のだ。
修正訳: 茶色の顎鬚はていねいに刈り込まれていた。
代名詞:***、形容詞:***
He spoke English with a strong German accent. His clothes were worn and darned in places, and wrinkled and baggy in others. But he looked neat, and had very good manners.
 彼の英語はひどいドイツ訛りだった。服はすり切れ、ところどころつぎが当たっており、他の部分は皺だらけでだぶだぶだった。だが小ざっぱりとして、物腰が非常にていねいだった。

[解説]
ある部分が「すり切れ、つぎはぎだらけ」で、別のある部分が「皺だらけで、だぶだぶ」との服の想像がつかない。並列が不自然だからだ。
clothes は「今着ている服」ではなく「(抽象的に)衣類一般」をいう。in places は「ところどころ」だが、ここの in other (places) は「(同じ服の)別の箇所」をいうのでなく、「別の場合における、ところどころ」のこと。
古着か吊るしで、部分によっては自分の身に合わないのだろう。「
またあるときは、ところどころだらしなく膨らんでいて皺が寄っていることもあった」が直訳だが、そこまで厳密に訳す必要も無いだろう。
修正訳: だぶだぶで皺だらけのこともあった
間投詞:**、前置詞:***
Blumberger’s been buying the bread here. Well, today—well, you know, ma’am, that butter isn’t —well,
Blumberger’s plan isn’t good for anything now except to cut up into railroad sandwiches.”
ブランバアガアはこの店で今までそのパンを買ってました。ところが今日…そのう、わかるでしょうがね、おかみさん、あのバタじゃ…で、ブランバアガアの設計図はもう役に立たなくなってしまったんです。あのパンじゃ、汽車弁のサンドイッチにするより他ありません

[解説]
you know は、軽く間投詞的に使われることが多い。ここもそう。
cut up into について訳者の note に、「 into は結果をあらわす。この一文の主語は Blumberger’s plan だから最後の to cut up 云々は理屈に合わない話である。作者のペンはうっかり、その設計図をだめにしてしまったバタのついた古パンへ辿ってしまったためにこんな羽目になったのであろう。」とあるが、これは誤り。
確かに
cut up into cut (自動詞:切る) up (副詞:すっかり) into (変化をあらわす前置詞:…の状態になる・する)ととり、「 plan を切り刻んで、サンドイッチにしてしまう」とも文法上は取れるが、そんな莫迦なことをO・ヘンリーともあろうものが書くわけがあるまい。
ここは、「切り刻んで、サンドイッチの中に入れる」→「設計図用紙をいくつかに切って、乾燥を防ぐためにサンドイッチを包むセロハン紙代わりに使う」ととるのが順当。
修正訳: あのね
サンドイッチの包みに使うしかありませんよ。
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