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第54回 (4月号)
『ハムレット』第3独白
by 柴田耕太郎
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 文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
 そんな読者のために、人気小説の翻訳書にみる誤訳・悪訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。
 今回は趣向を変え、シェークスピアの名作『ハムレット』第3独白をとりあげる。
 坪内逍遥、福田恒存、小田島雄志の訳文を掲げるが、もちろんいずれも間違っているわけでない。しかし、随分と訳文から受ける印象が異なる。ここでは何故いくつもの訳が生まれるのか、原文を細かく検証してみる。
『ハムレット』(あらすじ)
 デンマークの王子、ハムレットは、死んだ父王の亡霊から、父が叔父に毒殺されたことを告げられる。その叔父クローディアスはいまや国王となり、先王の妃であり、ハムレットの母親であるガートルードを妃としている。事の真実を確かめるため、ハムレットの苦悩は始まる。狂気を装った挙句、誤って宰相ポローニアスを殺め、その娘である愛するオフィーリアを入水させてしまう。王の毒殺場面を盛り込んだ芝居を現王に見せ、そのおののきから亡霊の言が真実であるとつかんだハムレット。現王はハムレットに恨みをもつ故宰相ポローニアスの息子、レアティーズをそそのかし、剣術の試合をさせる。示し合わせレアティーズの剣先には毒をぬり、また勝負の途中でハムレットが水を飲むはずの盃には毒薬を流しこんでいた。ところが、王妃ガートルードがその盃をハムレットの勝利を祈って飲み干してしまう。ハムレットが油断したすきに、レアティーズはハムレットを突き刺す。この間、二人の剣が取り替わり、こんどはハムレットがレアティーズを刺す。王のたくらみは露見、瀕死のハムレットは王を刺し殺し、この国の王位は隣国ノルウェーの王子であるフォーティンブラスにと託し、こと切れる。

(原文)
To be, or not to be: that is the question:
Whether ’tis nobler in the mind to suffer
The slings and arrows of outrageous fortune,
Or to take arms against a sea of troubles,
And by opposing end them? To die: to sleep;
No more; and by a sleep to say we end
The heart-ache and the thousand natural shocks
That flesh is heir to, ’tis a consummation
Devoutly to be wish’d. To die, to sleep;
To sleep: perchance to dream: ay, there’s the rub;

(坪内逍遥・訳)
世に在る、世に在らぬ、それが疑問じゃ。
残忍な運命の矢や石投を、ひたすら
耐え忍んでおるが男子の本意か、
あるいは海なす艱難を迎え撃って、
戦うて根を断つが大丈夫の志か?
死は…ねむり…にすぎぬ。
眠って心の痛みが去り、
この肉に附纏うておる千百の
苦が除かるるものならば…
それこそ上ものう願わしい
大終焉じゃが。
…死は…ねむり…眠る!
ああ、おそらくは夢を見よう!
…そこに故障があるわ。

(福田恒存・訳)
生か、死か、それが疑問だ、どちらが男らしい生きかたか、じっと身を伏せ、不法な運命の矢弾を耐え忍ぶのと、それとも剣をとって、押しよせる苦難に立ち向い、とどめを刺すまであとには引かぬのと、一体どちらが。いっそ死んでしまったほうが。死は眠りにすぎぬ?それだけのことではないか。眠りに落ちれば、その瞬間、一切が消えてなくなる、胸を痛める憂いも、肉体につきまとう数々の苦しみも。願ってもないさいわいというもの。死んで、眠って、ただそれだけなら!眠って、いや、眠れば、夢も見よう。それがいやだ。

(小田島雄志・訳)
このままでいいのか、いけないのか、
それが問題だ。
どちらがりっぱな生き方か、このまま心のうちに
暴虐な運命の矢弾をじっと耐えしのぶことか、
それとも寄せてくる怒涛の苦難に
敢然と立ちむかい、
闘ってそれに終止符をうつことか。
死ぬ、眠る、それだけだ。
眠ることによって終止符はうてる、
心の悩みにも、肉体につきまとう
かずかずの苦しみにも。
それこそ願ってもない終わりではないか。
死ぬ、眠る、眠る、おそらくは夢を見る。
そこだ、つまづくのは。

[構文分析]
1<To be, or not to be>2<:> 3<that> is 4<the question>2<:>
5<
Whether> 6<’tis> 7<nobler> 8<in the mind> 9<to suffer>
10<
The slings and arrows> 11<of> 12<outrageous fortune>13<,>
5<
Or> 9<to take arms> 14<against> 15<a sea of> 16<troubles>17<,>
18<
And> 19<by opposing> 20<end them>? 21<To die: to sleep;
No more
>22<; and> 23<by a sleep> 24<to say> [we 25<end>
26<
The heart-ache and the thousand natural shocks>
27<
(That flesh is heir to)>]28<,>/ 29<’tis> 30<a consummation>
31<
(Devoutly to be wish'd)>. 32<To die, to sleep>33<;>
34<
To sleep>35<:> 36<perchance to dream>37<:> 38<ay,> 39<there’s the rub>40<;>
1 この to 不定詞は名詞的用法「…すること」。be は文末にきて「存在」を表す cf. She is a girl. (この is は連結動詞でSとCを結ぶ印)。「存在」の意味範囲が広いので、解釈によって訳が変わってくる。カンマは、息継ぎ、半拍置く印。この or は選択を示す。
2 コロンは以下詳細を示す。
3 that は直前に述べられたことを指す。ここでは前節全体。
4 question は「決断や議論を要する事柄」。cf. problem (乗り越え、解決せねばならない事柄) 。the は了解されている(ここではハムレットの心の中で)ことを指す。
5 whether A or B。whether は古用法で疑問詞(二者のうちどちらが)「AかBか」。Aは to suffer、Bは to take
例:
whether had you rather lead mine eyes, or eye your master's heels?
(先に立って私の案内するのと、旦那の後からついて行くのと、お前、どっちがいい)
*この
had ratherは「むしろ…したい」の意。
6 ’tis it is の省略形。この隠れた it は二つの to 以下を指す。
7 nobler の比較の対象は、to suffer to take
8 mind は「精神」転じて「(特に高い精神性を持つ)人間」。「男らしい」との訳は文の流れを重んじての意訳。
9 suffer の意味:ラテン語「suf- 下で、-fer 運ぶ」より(1)「(苦痛を)こうむる」(2)(文語で)「耐える」のうち(2)。arms は(1)古英語より「腕」(2)ラテン語より -s「武器」「戦闘」、のうち(2)。
10 the of 以下で規定されていることを示す。slings は「投石(器)」
11 ofは、所有、関連を示す。
12 outrageousout- 突き出て、rage 激怒より→「常軌を逸した」。fortune の意味:ラテン語「fors 偶然」より→「財産」「運命」「幸運」のうち、ここは「運命」
13 カンマの意味:息継ぎであり、かつ前のto不定詞の終了を示す。
14 「…に対して」「…に逆らって」。
15 イディオム「沢山の」。逍遥の時代には、適切な辞書がなかったかもしれない。
16 troubles の意味:-s「騒ぎ」「混乱」
17 息継ぎの印。
18 ゆるい順接「そして」。andの繋ぐもの:takeend
19 by の意味:能動形とともに用いられ手段を示す。opposing の意味:ここでは自動詞の動名詞「対立すること」
20 them の指すもの:troublesend は「終わらせる」だが、「生か死かが問題」といって、それを敷衍して「どちらが男らしい生き方か」と自問するのだから、「矢弾を耐え忍ぶ」のは「生」、end them (騒擾を終わらせる)のは「死」ととるべきだろう。それを受けて、「死ねば夢をみる、それが面倒だ」と続くのだから。すると end は「戦ってやっつける」でなく「負けてしまうかもしれない」との語感を訳文に響かせたいものだ(難しいが)。
21 以下詳細を示すコロンで「死ぬこと、すなわち眠ること」、比較・対照を示すセミコロンで「それ以上では全くない」、と言っている。
22 ; andで敷衍を示す「それで」「さらに言えば」。
23 sleep が可算名詞化され「ひと眠り」「自分がそうした眠りをとれば」といった感じになっている。
24 to say we end から is heir to まで。この to 不定詞は未来・仮定を示す(「…と言うことは」→「…と言えるとすれば」)
25 これは「…に終止符を打つ」「…を終わらせる」でよいだろう。
26 諸訳では前後を「心」と「体」の痛みと対比させているようだ。台詞の訳としては結構だが、ここ同義語反復ではないか。 natural は、自然に生じる。shock は、精神的衝撃。「心の痛み」と「何千もの自然と生じる心の動揺」
27 「肉体につきものの」Flesh is heir to the heart-ache and the thousand natural shocks. and の前後の名詞を並列させて読むのがよいと思うが…。諸訳は We end [{the heart-ache} and {the thousand natural shocks (that flesh is heir to)}].と読んでいる。be heir to は「…の相続人である」。
28 to 以下 heir to までの句が終る印。
29 it is の省略形で、it は前の句全体を指す。
30 「成就」「終焉」「結末」「極地」など。この a は「一種の」の意。
31 副詞 devoutly to be wish’d に掛かる。wish’d wished の省略形。「心より望まれる」。
32 このカンマは、言い換え。「死ぬことは眠ること」。
33 このセミコロンは、敷衍。
34 直前の to sleep を強調的に繰り返している。
35 以下詳細で、具体的に述べる印。
36 perchance は「おそらく」。to dream to sleep が等価だと言っている。
37 以下詳細で結論を導く印。
38 間投詞「ああ」「まあ」(非難、あきらめなどを表す)。
39 the rub で「障害」「困難」。
40 次に言葉がくるが、省略。
僭越ながら、私も舞台用に試訳してみた。

生か死か、それが問題だ。
どちらが男らしい生き方か、暴虐な運命の矢弾をじっと耐え忍ぶのと、
それとも、
幾多の苦難に敢然と立ち向かい結着をつけるのと、
どちらが。
死ぬことは眠ること、それだけ。
眠ることで、あまた身の痛みも心の傷も
消えるものなら、
願ってもない結末というもの。
死は永遠の眠り。だが、
眠ればまた夢も見よう、
そこに障りがあるわ。
*
「あまた身の痛みも心の傷も」は自分自身の原文解釈と違う訳になった。リズムを優先させた翻訳の便法、というもの。
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