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文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
そんな読者のために、人気小説の翻訳書に見る誤訳・悪訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画『007は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアルド・ダール(Roald Dahl)の短編から任意に選ぶ。いずれも原文で10ページ程の短いものが中心だから、読者も自分で訳してみて、この解説を参考に市販訳との優劣を競ってみてはいかがだろうか。
冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
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誤訳度: |
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致命的誤訳(原文を台無しにする) |
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欠陥的誤訳(原文の理解を損なう) |
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愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲) |
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『来訪者』The Visitor
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(原文p340---訳文p32)
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まったき静けさ、小鳥の鳴き声や虫のすだく声ひとつ聞こえない。
The stillness was overpowering. There was no sound at all, no voice of a bird or insect anywhere, and ...
(コメント)
「すだく」の意味が分からなかった。辞書を引くと「虫などがたくさん集まって鳴く」とある。自分の教養の無さを恥じるが、エンタテインメントの訳はそうした無知な読者にも分かるものにしていただきたく…。
→小鳥の囀りや虫の音ひとつ
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(原文p340---訳文p33)
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わたしの求めるopisthophthalmus種は穴の中に棲むタイプなので、石をひっくりかえす手 間はかからなかった。
The one I wanted, opisthophthalmus, was a burrower, so I wasted no time turning over stones.
(コメント)
学術原語だとなんとなくもどかしい。できれば日本語にしてほしいところ。
→トリカラースコルピオン
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(原文p340---訳文p34)
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pandinus種
pandinus
(コメント)
これも上と同じ。「ダイオウサソリ」 |
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(原文p341---訳文p35)
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時間は午後二時二十分
The time was twenty minutes before two in the afternoon, and ...
(コメント)
うっかりミスだろう。「午後二時二十分前」 |
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(原文p341---訳文p35)
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かなり効率よく走ったことになる?がしかしこれではどうにもならない。
I’d cut it rather fine—but no matter.
(コメント)
cut rather fine は熟語「どうにか間に合う」。matter は、否定文で「重要なこと」。ここは強い否定の no と結びつき「全然問題でない」「どうってことない」(ガソリンスタンドを目の前にしての心の声)。元訳は意味が逆になっている。but は逆接でなくand に近い。
→いや何とか間に合った—でも大事ない。 |
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(原文p342---訳文p37)
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「おれはビル・ラウド・サリムのガソリン・スタンドの王だ!さわれるものならおれにさわってみろ!」とでも言いたげな、嘲りを含んだ意地悪な目つきだった。
It was more of a leer than a grin, an insolent mocking leer that seemed to be saying, ‘I am the king of the gasoline pumo at B’ir Rawd Salim! Touch me if you dare!’
(コメント)
touch は、表の意味「触る」がここでは比喩的に用いられ「手を出す」「干渉する」の意味。
if you dare はイディオムで「やれるものなら」。
→やれるものならやってみろ→なんか文句あるか |
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(原文p343---訳文p38)
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わたしはグラスをほしてもう一杯注いだ。間もなくいくらか警戒心が弱まった。
I emptied the glass, and poured myself another. Soon I began to feel less alarmed.
(コメント)
車が砂漠の中でエンコし、伝染病だらけの男に自分の命綱を預けている事実の叙述に続く箇所。酒で心を静めているのだ、当然「警戒心」でなく「不安感」としなければなるまい。 |
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(原文p343---訳文p39)
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彼は足を踏み鳴らしながら車の前部にまわったが、その歩き方はきわめて緩慢な動きで例のグースステップを踏む、ヒトラーの酔っぱらいの突撃隊員を思わせた。
He went clumping off towards the front of the car, and his walk reminded me of a
drunken Hitler Stormtrooper doing the goosestep in very slow motion.
(コメント)
例えが分かりにくいが「ヒトラーの突撃隊員のグースステップ(膝を曲げないで足を真直ぐに伸ばして歩く観兵式歩調)が、酔っぱらっているので動作が緩慢になっている」のだろう。
→ヒトラーの突撃隊員が酔っぱらってグースステップを踏んでいるかのように見えた |
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(原文p344---訳文p40)
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「ほら」と、アラブ人の声が聞こえた。「たった一本の糸でやっとつながってたんだよ。気がついたからよかったものの」
‘You can see,’ the Arab was saying, ‘it was hanging on by a single thread. A good thing I noticed it.’
(コメント)
ここは比喩的な意味。例:Her life hung by a single thread: 彼女の命は危機一髪であった。
「このまま走っていたらファンベルトが切れて砂漠の真ん中で立ち往生したはずだ」との気持ちがこもっている。
→あぶないところだったな
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