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文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
そんな読者のために、人気小説の翻訳書に見る誤訳・悪訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画『007は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアルド・ダール(Roald Dahl)の短編から任意に選ぶ。いずれも原文で10ページ程の短いものが中心だから、読者も自分で訳してみて、この解説を参考に市販訳との優劣を競ってみてはいかがだろうか。
冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
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誤訳度: |
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致命的誤訳(原文を台無しにする) |
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欠陥的誤訳(原文の理解を損なう) |
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愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲) |
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『来訪者』The Visitor
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(原文p350---訳文p51)
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‘Oswald Cornelius,’ I said. ‘It is a great pleasure.’ We shook hands.
‘I live partly in Beirut,’ he said.
‘I live in Paris.’
「オズワルド・コーネリアスです。お目にかかれて光栄です」われわれは握手をかわした。
「わたしはベイルートにも住んでおります」
「わたしはパリです」
(コメント)
地元在住のアラブ紳士とオズワルド叔父が紹介し合う場面。
「ベイルート」が強調されすぎる。
⇒ベイルートにも住まいがあります |
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(原文p350---訳文p52)
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Omar and Saleh stood bowing and scraping.
オマルとサレフは頭をさげ、体をぼりぼり掻きながら聞いていた。
(コメント)
これはイディオム。
⇒ぺこぺこしていた |
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(原文p350---訳文p52)
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‘Oh, by the way,’ Mr Aziz called over to me, ‘I usually put on a black tie for dinner.’
‘Of course,’ I murmured, quickly pushing back my first choice of suitcase and talking another.
「そうそう」と、アジス氏がわたしに声をかけた。「夕食にはいつもブラック・タイを着用するんですよ」
「そうでしょうとも」と相槌を打ちながら、わたしはすばやく最初のスーツケースを押し戻して別のを持ち上げた。
(コメント)
of course は意味範囲が広いが、ここは「なるほど」といった相槌ととりたい。
⇒そうですね。 |
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(原文p350---訳文p52)
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‘I do it for the ladies mostly. They seem to like dressing themselves up for dinner.’
I turned sharply and looked at him, but he was already getting into his car.
「なに、本音を吐けば女どものためですがね。女というやつは夕食のために正装することを好むようですな」
わたしははっとして振りかえったが、彼はすでに車に乗りこむところだった。
(コメント)
何で「はっとする」のかわからない。sharp は程度が強いこと。状況により訳し分ける。「鋭い」とばかり覚えていると訳が馴染まないことがある。
⇒思わず振り返ったが |
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(原文p350---訳文p53)
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That pleased him. It seemed that he loved carpets almost as much as I loved the blue vases of Tchin-Hoa.
この答えが彼を喜ばせた。どうやら彼はわたしの明成化時代の青釉壺に劣らず絨毯を熱愛しているらしい。
(コメント)
字書では Chenghun となっているが、音をとって Tchin-Hoa としたのだろう。
明成化帝の時代とわかるように訳してもらいたい。
⇒明成化帝期の青花磁器 |
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(原文p351---訳文p55)
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But the others seem somehow able to face it and accept it.
しかしほかの父親たちはなんとかそれに立ち向って、結局は受け入れているようです。
(コメント)
it は、娘が望ましくない恋愛に走ること、を指している。
face it には積極的な意味もあるが、ここは「(嫌な事態に)直面する」の意。
⇒そういう事態になっても |
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(原文p353---訳文p59)
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On my right, was a wide archway leading to a garden room, and I received a fleeting impression of cool white walls, fine pictures, and superlative Louis XV furniture.
右手には広い部屋に通じる幅の広いアーチ状の廊下があって、涼やかな白い壁、美しい絵、ルイ十五世時代のみごとな家具などがちらと見えた。
(コメント)
a garden roomは「庭に面した部屋」のこと、どうして「広い部屋」となるのか?
Louis XV furnitureは、「その時代の」「その時代風の」の二つにとれる。だが「ルイ十五世時代の家具」とはあまり言わないのはでないか。
⇒ガーデンルーム
ルイ十五世朝の/ルイ十五世朝風の |
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(原文p356---訳文p64)
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‘I thought that would surprise you,’ Mr Aziz said, laughing. ‘It’s cooled. I keep it at sixty-five degrees. It’s more refreshing in this climate.’
「びっくりなさったでしょう」と、アジス氏は笑いながら言った。「冷たくしてあるんですよ。およそ10度にね。この暑さではそのほうが気持がいいんです」
(コメント)
10度では、ぶるぶる震えてしまうだろう。華氏32度が摂氏0度、華氏212度が摂氏100度だから、(65−32)÷(212−32)=0.18ということで、摂氏に直して
⇒18度 |
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(原文p357---訳文p66)
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The older woman had that slight forward hunch to her shoulders which one sees only in the most passionate and practiced females; for in the same way as a horsey woman will become bandy-legged from sitting constantly upon a horse, so a woman of great passion will develop a curious roundness of the shoulders from continually embracing men.
夫人の肩はかすかに前かがみになっているが、これはたいそう情熱的で経験豊かな女性にだけ見られる特徴だ。なぜなら乗馬好きの女性がいつも馬の背に跨っているせいでがにまたになるように、情熱的な女は絶えず男を抱擁する結果、肩がふしぎな丸みを帯びてくるからである。
(コメント)
「前かがみの肩」では、猫背かと思ってしまう。これは、後の roundness of the shoulders のことで、その丸みが外側でなく内側になっている、ということだろう。to は付属(…に付いた)
⇒肩の筋肉は心なしか前側に寄っている |
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(原文p358---訳文p67)
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It was a marvelously lascivious gesture, and more than once it caused me to trump my own trick.
その表情があまりにも挑発的なため、わたしは一度ならず切札で自分自身のトリックを取るはめになった。
(コメント)
トランプ好きならこれで意味が分かるのか? trump は、奥の手を出すこと。trick は、有力な札。ここ比喩的にいっているのではないか。
⇒自分の手を見せてしまう |
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(原文p362---訳文p74)
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Afterwards, I returned to the living-room to smoke a cigarette while my host continued writing at his desk.
それから居間へ戻って、アジス氏が書きものを終えるまでに煙草をつけた。
(コメント)
方向が逆。
⇒それから居間へ戻り、煙草に火をつけたが、アジス氏はまだ書き物をしていた。 |
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(原文p363---訳文p76)
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‘Did you have a decent night?’ she asked, perching herself like a young bride on the arm of my chair, arranging herself in such a way that one of her thights rested against my forearm.
彼女は新婚早々の妻のようにわたしの椅子の腕にちょこんと腰かけて、太腿をわたしの前腕に押しつけた。
(コメント)
若妻はみんなそんなことをするのか? この bride は「(女の)恋人」の意味だろう。若い恋人同士が椅子のあたりでじゃれ合うありきたりの光景を言っているのだ。
⇒若い恋人同士でよくするように |
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