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今回は第5回『天国への登り道』の、表現として気になる部分を取り上げる。 |
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天国への登り道 The way up to Heaven
[ストーリー] フォスター夫妻はニューヨークに住む富豪。なに不自由ない暮らしに見えるが、夫の底意地の悪さに妻は辟易している。その妻がパリにいる娘に会いに出かける当日のこと。フライトの時間に間に合わないと焦る妻は、まだぐずぐず屋敷内にいる夫を呼びに玄関まで来た。そこで、夫が乗っているはずの奥のエレベータが中空で停まっているのに気づく。瞬時ためらったが、知らないそぶりで、そのまま夫を置き去りにして空港へと急いだ。それから3週間。妻が自邸に戻ってみると、どうやら夫は…。 |
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●ことばの強さ |
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Mr Foster may possibly have had a right to be irritated by this foolishness of his wife’s, but he could have had no excuse for increasing her misery by keeping her waiting unnecessarily.
フォスター氏が、こういった夫人の馬鹿馬鹿しい仕打ちに腹をすえかねたのは、もっともだとしても、だからといって、必要以上に彼女を待たせ、いっそう夫人にみじめな気持ちを味わせていいというわけのものではあるまい。
[解説]
「腹にすえかねた」なら、何をしてもよいことになってしまいかねない。
「いらだって当然だったにしても」 |
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●正確性 |
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He had disciplined her too well for that.
こういう点については、実に良人はきびしかった。
[解説]
訳はこれでよいだろうが、意味は「良人はよくしつけていた」
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●誤用 |
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She reached over and pulled out a small paper-wrapped box, and at the same time she couldn’t help noticing that it was wedged down firm and deep, as though with the help of a pushing hand.
と同時に、それが誰かの手で、奥の方へむりやりおしこめられてあったのだということが、夫人の頭にひらめいた。
[解説]
wedge は状態動詞(くさびを入れて状態を保つ)、動的動詞(押し込む)のどちらにもとれるが、「…押し込められてあったのだ」と状態に訳すより「…押し込められた」と行為に訳すほうが自然ではないか。「ひらめく」は「思いつきが頭に浮かぶ」ことで、cannot help 〜ing の意味「《しまいと思っても》どうしても《つい》…してしまう」とはちょっとずれる。
「押し込められたのだと、思わずにはいられなかった」 |
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●比喩の適正さ |
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The new mood was still with her.
あの新しい興奮はまだ、夫人の内部に息づいている。
[解説]
「内部に」では物みたいだ。「夫人の心(の中)に」 |
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●ことばの古さ |
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She waited, but there was no answer.
しばらく待ってみたが、何のいらえもない。
[解説]
「いらえ」が「答え」「返事」の意味であることがわかる人がどれだけいるだろうか。
「何の返事もない」 |
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今回は表現に文句をつける箇所が少なかった。訳者が気合を入れて訳したのか、それとも下訳者が優秀なのか… |
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