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文法力をつけたいが、無味乾燥な文
法書など読みたくない。
そんな読者のために、人気小説の翻訳書に見る誤訳・悪訳をとりあげ、
文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画『007は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアル
ド・ダール(Roald
Dahl)の短編から任意に選ぶ。いずれも原文で10ページ程の短いものが中心だから、読者も自分で訳してみて、この解説を参考に市販訳との優劣を競って
みてはいかがだろうか。
冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げ
ます。どう間違っているのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
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誤訳度: |
*** |
致命的誤訳(原文を台無しにする) |
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** |
欠陥的誤訳(原文の理解を損なう) |
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愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲) |
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Mr
Hoddy「ホディ氏」 |
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(原文p620―訳文p414 ** 受身
But a very superior man was Mr Hoddy, a grocer’s assistant, one who
wore a spotless white gown at his work, who handled large quantities of
such precious commodities as butter and sugar, who was deferred to,
even smiled at by every housewife in the village.
「食料品店の店員で、仕事中は汚点ひとつない真白なガウンをまとい、バターや砂糖のような、貴重な日用品を、莫大な量
とりあつかって、しかも、村中の奥さん連のだれかれにも愛想よくふるまいながら、注文をうけたまわるのだ。
(コメント)
defer to は「…を尊重する」(自動詞+前置詞=他動詞化)。ここではそれが受身になってい
る。smiled at も同じく受身。
修正訳: 村の奥さん連のだれからも敬意を払われ、愛想笑いさえ受け
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(原文p630―訳文p433) * 名詞
He
wished Mr Hoddy wouldn’t push him around like this, always shooting
questions at him and glaring at him and acting just exactly like he
was the bloody adjutant or something.
ああ、ホディさん
が、こんなふうにぎゅうぎゅう油をしぼってぼくを質問ぜめにし、まるで血も涙もない副官かなんかみたいににらみつけたりしてくれなきゃいい
のにと、クロウドは思わずにはいられなかった。
(コメント)
he
のとりかた(1) Hoddy (2) Claud、
により adjutant の意味(1)副官(2)助手が変わる。
(1)なら「ホディ氏は意地悪な高級軍人のように」の意味、(2)なら「クロードが自分の小僧でもあるかのように」の意味になる。私は(2)をとりたい。
副官は参謀的な役割りなので、尊大さを示す例となりにくいように思う。また bloody は(1)
なら「残虐な」(2)なら「とんでもない」の意味。
修正訳: 使いっ走りをどやすように
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(原文p630―訳文p433) ** 複数語義
‘I’ve never been in favour
of starting a business,’ Mr Hoddy pronounced, defending his own
failure in that line.
「事業をはじめるってこと
が、わたしは、どうも好きになれんのだよ」とホディ氏は、自分の事業の失敗を弁護するような口ぶりで、そう言った。」
(コメント)
failure in
(1)…しないこと(2)…できないこと、のうち(2)。「失敗した」のでなく(このあとに「いままでずっと実直に勤め上げてきた」とあるところから見て
も)「能力がない」のだ。
修
正訳: その方面での自分の能力の
なさを抗弁するように
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(原文p631―訳文p436) ** 未来形、*** イディオム
‘It’s an
absolute gold-mine, Mr Hoddy, honestly it is.’
‘I’ll believe that when I hear it.’
‘It’s a thing so simple and amazing most people wouldn’t even
bother to do it.’
「それはまったく宝
の山なんです、ホディさん、ウソじゃありません」
「わたしは、はなっから本気にしとるよ」
「簡単な、おどろくべき仕事です。ほとんどの人間が、それをやるのにクヨクヨ考えたりはしますがね」
(コメント)
前の部分の直訳は「それを聞いた時に信じることにするよ」。
後の部分は連関詞 so 〜 that
のthatが省略されたもの。bother to doは「わざわざ…する」。
おどろくほど単純で、誰もわざわざやってみようと思ったりしない、ということ。
修正訳: 聞いてから信じよう
わざわざやってみようと思ったりしません
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(原文p632―訳文p438) ***名詞
… a crown wheel and pinion, for instance?
「…つまり、たとえば王室用の大型車や小型車を
ですよ?」
(コメント)
crown
だから「王冠」⇒「王室御用達」と考えたのだろう。
どんなものにも需要はある例として、人が普段気づかないものを挙げているのだ。
修正訳: 冠歯車、小歯車
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(原文p632―訳文p438) *** 名詞、*** 分詞
‘Exactly
this―that certain people buy certain things, see. You never bought a
crown wheel and pinion in your life, but that don’t say there
isn’t men getting rich this very moment making them―because there
is. It’s the same with maggots!’
「それはこうです―ある人たちは、たしかにあるものを買って
います。あなたは一生のうちに王室用の大型車も小型車も買ったことはない。でも、どこかの金持ちが、いまこの瞬間にも、それを買って
ないとは言えないはずです―だって、それは、あることはあるんですからね。ウジ虫にしたって、おんなじことです!」
(コメント)
there isn’t
は導入語、this very moment は修飾語で、共に外して外して一文にしてみる。Men get rich making them. them は歯車類、making は分詞構文「…しながら、…することで」。なお元の文のmen getting rich の gettingは
men に掛かる分詞形容詞。
修正訳:
冠歯車も小歯車も
今この瞬間にもそうしたものを作って金持ちになってる人たちがいるはずなんです
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(原文p633―訳文p440) ***名詞
‘Easiest thing in the world
to run a maggot-factory.’ Claud was gaining confidence now and
warming to his subject.
「ウジ虫製造なんて、ぜんぜんたやすいことですよ」い
まや、信用をすっかりつけたクロウドは、自分の話にすっかり熱中してきた。
(コメント)
confidence (1)
信用、信頼(2) 自信、確信のうち(2)。
日本語にすると大きく意味が違ってしまうので注意が必要。
修正訳: すっかり自信をつけたクロウドは |
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