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文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
そんな読者のために、人気小説の翻訳書に見る誤訳・悪訳をとりあげ、
文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画『007は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアル
ド・ダール(Roald
Dahl)の短編から任意に選ぶ。いずれも原文で10ページ程の短いものが中心だから、読者も自分で訳してみて、この解説を参考に市販訳との優劣を競って
みてはいかがだろうか。
冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げ
ます。どう間違っているのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
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誤訳度: |
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致命的誤訳(原文を台無しにする) |
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** |
欠陥的誤訳(原文の理解を損なう) |
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愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲) |
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Neck 「首」
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ストーリー
タートン卿の屋敷に出かけたコラムニストの私。令夫人ナタリアはいけ好かないが、卿とは気が合った。二人して広大な庭園を散歩するうち、彼方にハドック少
佐とじゃれ合う令夫人の姿が目に入った。あろうことか接吻まで交わしている。そのうちふざけて野外彫刻に突っ込んだ令夫人の首が抜けなくなった。斧と鋸を
執事に持って来させた卿は、斧をふりかざそうとするが、ふとその手を休め鋸に替えた。恐怖が安堵に変わる令夫人の表情を尻目に、ニヤッと微笑みを見せる卿
の顔を私は見逃さなかった。 |
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(原文p565) *** 中間話法
WHEN, ABOUT
EIGHT years ago, old Sir William Turton died and his son Basil
inherited The Turton Press (as well as the title), I can remember how
they started laying bets around Fleet Street as to how long it would be
before some nice young woman managed to persuade the little fellow that
she must look after him.
(訳文p247)
八年ほどまえ、老ウ
イリアム・タートン卿が亡くなって、息子のベイシル・タートンがそのサーの称号とともに《ザ・タートン・プレス》紙を引き継いだころは、“どこかのべっぴ
んに、あなたのお世話をさせなくては”と、あのちび助の奴をうまくまるめこむまでに、いったい、どのくらいかかるだろうかというんで、フリート街の連中
は、ずいぶんとそんな賭をしたもんだ。
(コメント)
何回読んでも意味が取れない
のは、誰が誰に言った台詞か分からないからだ。
theyは業界雀、Fleet Street は当時有名な新聞街、it は時間、persuade 人 that は「人を説得して…させる」、the
little fellow はベイシル・タートン、she は some nice young woman。
直訳:わたしは思い出す、人々がフリート街辺りで次のようなことに賭けをし始めた事の次第を。つまり、どこかの素敵な若い女性が努力の末、この結構な奴に
「私こそが貴方のの面倒を見なければならないのよ」と説得し終えるまでにどれくらいの時間がかかるだろうかについて。
修正訳:
私は思い出す、この仕合せ者を籠絡して「この娘に自分の面倒を任せよう」という気にさせる女がいつ出てくるか、フリート街で賭けがなされたのを。
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(原文p545) *** 言い換え
That is to say,
him and his money.
(訳文p247)
私は、そのことをよ
く覚えている。こんなところが、彼や、彼の財産に対する、まあ反応だったんだ。
(コメント)
上から引き続く文。that
is to say はイディオムで「すなわち」だが、細かく言えばここの that は前文の she must look after him を指す。
直訳:世話をするというのはすなわち、彼と彼の金である。
修正訳: 面倒をみる、のはもちろん彼自身かつ彼の財産のことになる。 |
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(原文p545) ***代名詞
Naturally, the
vultures started gathering at once, and I believe that not only Fleet
Street but very nearly the whole of the city was looking on eagerly as
they scrambled for the body.
(p181)
で、当然、禿鷹ども
がすぐさま集まってきはじめ、私の信じているところでは、フリート街ばかりじゃなく、ロンドン市のほとんどの連中が、その死体を奪いとろうと、ギョロギョ
ロ、眼をひからせだしたのだ。
(コメント)
the
body を奪いあうのは the vultures たる女たち。look on 見物するのは業界雀とロンドン子。
直訳:私が思うに、フリート街だけでなく殆んどロンドン中の人々が、禿鷹たちが死体を奪い合
う時熱心に見物していた。
修正訳:
フリート街のみならず全ロンドンが、禿鷹が死体に群がる様を高見の見物と決め込んだ。 |
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(原文p545) * 名詞
This was a
mistake because precisely at that moment a dazzling creature called
Natalia something or other, whom nobody had heard of before, swept in
from the Continent, took Sir Basil firmly …
(訳文p248)
というのは、ちょう
どそのあいだに、以前には誰も耳にしたこともない、ナタリアとかなんとか言う、目もくらむばかりの創造物が大陸から風のようにやって来たかと思うと、…
(コメント)
この creature は「女
性」の意。でも元のままでも大げさな感じでいいか…
修正訳: 美女 |
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(原文p546) * 名詞
By now, as you
must have guessed, she was not only running the whole of The Turton
Press, but as a result had become a considerable political force in the
country.
(原文p546)
さて、もうお気づき
のことと思うが、彼女は《ザ・タートン・プレス》を牛耳っているばかりじゃなく、その結果として、この地方の重要な政治力もにぎっていた。
(コメント)
he
country は@国 A田舎 B地方 の三義あり。タートン・プレスはロンドンにある有力紙のようだ。ここは文脈から@。
修正訳: この国 |
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(原文p548) *** 副詞(形容詞ともとれる)
The pier of the
balustrades were surmounted by stone obelisks ― the Italian influence
on the Tudor mind ― and a flight of steps at least a hundred feet wide
led up to the house.
(訳文p254)
欄干のあいだの壁
は、石の方尖塔―チューダ風の、イタリアの影響のある―をのせ、階段のつらなりは、さあ、すくなくとも家まで百フィートの長さはあった。
(コメント)
百フィートといったら30
メール以上になる。随分長い玄関階段だが。
wide は副詞で「幅が…の」
直訳:少なくとも幅百フィートの階段の連なりが館にまで至っていた。
修正訳: 玄関まで百フィート幅の階段が続いていた。 |
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(原文p550) *** 数詞
…all that he
would ask was that instead of a tip I should give him thirty-three and
a third per cent of my winnings at cards over the week-end.
(訳文p258)
手前のお願いと申し
ますのは、チップのかわりといたしまして、あなたさまが週末にトランプでお勝ちになった総額の九十九パーセントを、手前にいただかしていただきたいという
ことなんで。
(コメント)
いくら何でも勝ち分の99%
の分け前にあずかろうという協力者はいまい。
直訳:33と3分の1パーセント
修正訳: 三分の一 |
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(原文p553) ** 名詞、** 指示語
In any event
Jelks was a nuisance all evening; and so was Lady Turton who was
constantly called to the phone on newspaper business.
(訳文p265)
とにかく、ジューク
は、一晩中ずっと不機嫌だった。そして、タートン卿夫人も、新聞関係の仕事で、しょっちゅう電話に呼びだされるので、不機嫌そうだった。
(コメント)
不可算名詞の可算名詞化で
「わずらわしい人物」。so は…もそうです、の意味で a nuisance too
修正訳: ジュークがわずらわしかった。タートン卿夫人も…私のいらいらを募らせた。
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(原文p556) * 名詞
Once she put
her arms around one of the protruding wooden limbs and hugged it, and
another time she climbed up and sat side-saddle on the thing, holding
imaginary reins in her hands.
(訳文p270)
一度は、つき出てい
る木の手脚の一つに彼女は手をまわし、それを抱きしめてみた。もう一度は、その上にのぼって、横座りにすわり、ふりしきる空想の雨を両手にうけとめるしぐ
さをした。
(コメント)
ご愛嬌。reinとrain
を間違えたか。想像のし過ぎ。訳稿を読み直して気付くべきだった。
修正訳: 架空の手綱をあやつる
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*訳文の瑕疵もひどいが、編集者は何をして
いるのだろう* |
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