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今回は第16回『ジョージ・ポーギー』の、気になる表現を取り上げます。 |
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ジョージ・ポーギー
[ストーリー] ジョージ・ポーギーは青年副牧師。女性と付き合ったことがまだ無い。だが、劣情は人一倍強く、かつまた教区の独身女性たちの誘惑もはげしく、それらを押し留めるのに苦慮している。そんなとき、めずらしく清楚ではつらつ、インテリジェンスのある中年のローチ嬢に巡り会った。勧められるまま、アルコールらしき飲み物を一口啜る。気分が高揚し勢いでローチ嬢に迫ったのはよいのだが、そのプロセスが拙かったらしく、彼女はいたくおかんむり。ジョージは思わず彼女の口の中に飛び込み、今やその十二指腸の上に小部屋を作って、ほとぼりが醒めるまでしばらくのんびりを決め込んでいる。 |
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●表現: |
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‘Josephine has just started having her babies,’ my mother says.
「ジョジフィンがたったいま赤ちゃんを生みはじめたのよ」と母がいった。
[解説]
人名、地名は現地語読みが原則。ここ Napoleon に対する Josephine だから、フランス皇帝ナポレオンの后である「ジョセフィーヌ」の名で呼ばなければならない。
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Josephine is reclining on a help of straw inside the low wire cage in one corner of the room---large blue rabbit with small pink eyes that watch us suspiciously as we go towards her.
ジョジフィンは車庫の片隅にある低い檻のなかの藁山に寄りかかっている---私たちが近寄っていくと、大きな青いウサギは小さな赤い眼で警戒するように私たちを見た。
[解説]
本当に「青い」わけでなく、薄い灰色を「青」と呼んでいるのだ。くすみを感じさせる「蒼」の語を充ててはどうだろう。
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, and I scream again, and this time I can’t stop.
私はまた悲鳴をあげ、こんどは、それを抑えることができなかった。
[解説]
元訳では「それを」が指すものがあいまい。この stop は自動詞「(作業《この場合、悲鳴をあげること》)をやめる」。
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I run down the drive and through the front gates, screaming all the way, and then, above the noise of my own voice I can hear the jingle of bracelets coming up behind me in the dark, getting louder and louder as she keeps gaining on me all the way down the long hill to the bottom of the lane and over the bridge on to the main road where the cars are streaming by at sixty miles an hour with headlights blazing.
私はドライヴウェイを走り、門を抜けていきながら、その途中ずっと叫びつづけていた。
[解説]
「ドライヴウェイ」が、「道路から玄関・車庫に通じる私設車道」だとわかる読者がどれほどいるだろうか。
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---she must have come tip-toeing up behind me---all at once I felt a bare arm sliding through mine, and one second later her fingers were entwined in my own, and she was squeezing my hand, in out, in out, as though it were the bulb of a throat-spray.
きっと爪立ちで背後からそっと寄ってきたに相違ない。
[解説]
「爪立ち」との言葉はたしかにあるが、あまり使わないのでは。
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Miss Foster was a woman in the village who bred cats, and recently she had had the effrontery to put up a large sign outside her house in the High Street, saying FOSTER’S CATTERY.
フォスター嬢というのは猫をなん匹も飼っている村の女で、最近、厚かましくもハイ・ストリートの家の前に「フォスターの猫飼育所」という大きな看板を出した。
[解説]
「ハイ・ストリート」が何か、読者にわからない。町の中心の目抜き通りのこと、がわかるように訳す。
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Your poor throat sounded hoarse today during the sermon, it said.
「お気の毒に、今日の説教では、あなたの声はかすれておりました」その手紙にはそう書いてあった。
[解説]
「かすれておりました」は自分がへりくだる謙譲語。相手を立てる言い方に直す。
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‘Mens sana in corpore sano.’
「メンス・サノ・イン・コルポリ・サナ」
[解説]
ラテン語は原則ローマ字読み。
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‘The fruit cup is only made of fruit, Pardre.’
「フルーツ・カップはフルーツしか入ってませんのよ、牧師さん」
[解説]
このあと、「 Padre ということばの軍隊的な厳しい感じが気に入った」と言う意味が続くのだから、「牧師さん」ではまずいだろう。そのままカタカナで感じがわかると思う。
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‘Listen,’ she said softly. ‘How about the two of us taking a little stroll down the garden to see the lupins?’
「あたしたち二人でちょっと庭園を散歩して、ルピナスでもごらんになりません?」
[解説]
前後で文がねじれている。前半の、散歩するのはあたしたち、後半の、ルピナスを見るのはあなた。主語をあたしたちに統一する。
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I could feel my legs being drawn down the throat by some kind of suction, and quickly I threw up my arms and grabbed hold of the mouth-entrance, and I could actually look right out between the lips and see a little patch of the world outside---
私は、ある種の吸引力によって私の脚が喉をひきこまれていくのを感じて、すぐさま腕を思いきりふりほどき、下の前歯をつかむと、命かわいさにしばらくそのままにしておいた。
私の顔は口の入り口の近くにあったが、その唇のあいだから眼をやると、ほんのわずか外の世界が見えた---
[解説]
「脚が喉をひきこまれていく」とはどんな状態だろう?
「ふりほどく」というよりも「腕を上げる」。「命かわいさにしばらくそのままにしておいた」は原文にないし、不必要。
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Oh dear, oh dear. Looking back on it now, some three weeks later, I don’t know how I ever came through the nightmare of that awful afternoon without taking leave of my senses.
三週間ばかりたったいま、振り返ってあのときのことをつらつら考えてみると、私は、自分の感覚を失うことなく、どうやってあの恐ろしい午後の悪夢をくぐり抜けてきたのか、いまもってわからない。
[解説]
これは誤訳。take leave of one’s senses は、イディオム「血迷う」「気が狂ったように振舞う」(senses は「五感」)。
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He is civil and dignified, and I imagine he is lonely because he likes nothing better than to sit quietly in my room and listen to me talk.
礼儀正しく、威厳のある男で、彼が孤独なのは、私の部屋に静かに座って私の話を聞くのがなにより好きだからではないかと想像している。
[解説]
何で「孤独」なのかがわからない。この lonely は「孤独」でなく「社交ぎらい」「一人でいることを愛する」の意味。imagine は、以下全文に掛かるのでなく、he is lonely に掛かる。
訳 |
わずらわしい人との付き合いを嫌っているらしいのは、…好きなことからわかる。 |
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