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◆代名詞の取り違い |
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As soon as she began to play, the cat again stiffened and sat up straighter; then, as it became slowly and blissfully saturated with the sound, it relapsed into the queer melting mood of ecstasy that seemed to have something to do with drowning and with dreaming.
彼女が奏きはじめるやいなや、ネコはまたも身体をかたくしてすっと立った。それから、曲がゆるやかな、至福にみちたところまでくると、ネコは例の奇妙な、うっとりした恍惚の表情になった。まるで曲に溺れこみ夢みているような表情だった。
[解説]
訳文では前の it は曲、後の it はネコととれるが、同じ文にある同じ代名詞が違うものを指すのはあまりよろしくない。it はいずれもネコを指す、ととるべきだろう。
直訳 |
ネコはゆっくりとこの上なく幸せに音響に浸されるようになるにつれ、溺死と夢想に関わる何物かがあるようにみえる恍惚の奇妙なとろっとした気分に再び陥った。 |
修正訳 |
音楽が徐々に昂まり、陶酔に満たされそうなところまでくると、… |
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◆比喩的な意味 |
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It stayed quite still, with its head on one side and its nose in the air watching the man and woman with a cool yellow eye.
ネコは頭を一方にかしげ、鼻を空中につきだし、冷たい黄色い眼でこの夫婦をじっと見守ったまま、身じろぎもしない。
[解説]
its nose in the air は表の意味では「鼻を空中に突き出し」、裏の意味では「傲慢な態度で」。どちらともとれそうだが、リストの生まれ変わりとヒロインが思い込むネコだ、ツンとした感じを出したほうが、面白いのではないか。
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◆事実に即す |
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The Bach adaptation for organ of the D minor Concerto grosso.
バッハの曲を編曲したオルガンのためのニ短調コンチェルト・グロッソ。
[解説]
ちょっと調べれば、わかること。ヴィヴァルディの曲をバッハが編曲したのだ。
修正訳 |
バッハによるオルガンのための編曲、ニ短調コンチェルト・グロッソ。 |
補足すると、アントニオ・ヴィヴァルディ『調和の霊感』作品3.(全12曲から成る協奏曲)の第11番ニ短調『2つのヴァイオリンとデュオのための協奏曲』を、J・S・バッハが『オルガン協奏曲ニ短調BWU596』に編曲した。 |
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◆日本語のコロケーション |
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She wasn’t, at that particular moment, watching the cat at all---as a matter of fact she had forgotten its presence---but as the first deep notes of Vivaldi sounded softly in the room, she became aware, out of the corner of one eye, of a sudden flurry, a flash of movement on the sofa to her right.
彼女は、そのときにかぎって、ネコをぜんぜん見ていなかった…正直な話、ネコがいるのを忘れていたのだ…が、ヴィヴァルディの最初の感動的ななん小節かがしずかに部屋にひびくと、彼女は眼のすみから、右手のソファで急にはげしく身動きするものに気がついた。
[解説]
「眼のすみから…気がついた」とのコロケーションがおかしい。
修正訳 |
右手のソファで急にはげしく身動きするものを、眼のすみで捉えた。 |
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◆原文とのズレ |
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And what made it more screwy than ever Louisa thought was the fact that this music, which the animal seemed to be enjoying so much was manifestly too difficult, too classical, to be appreciated by the majority of humans in the world.
しかも、ルイザが考えたところでは、このネコを前よりも奇妙な状態にしたこの曲は、実をいうと、ネコには非常にたのしく聞けるのに大多数の聴衆には非常に難解で、また古典的なのでわからない曲なのだ。
[解説]
「曲」がネコを「奇妙」にしたのでなく、「難解な曲」をネコが理解できるのが「奇妙」なのだ。
直訳 |
ルイザが思ったことに、このネコをさらに一層奇妙に思わせたのは、ネコがとても楽しんでいるように見えるこの音楽は、きわめて難解かつ古典的で、世間の人の大多数には良さがわからないという事実なのであった。 |
修正訳 |
このネコ、普通じゃないと、ルイザは改めて思った。なにしろ、世間の人にはあまりよく理解できない難解さを伴った曲を、ネコはいっそう楽しんで聞いているようだったからだ。 |
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◆ニュアンス |
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‘I’m quite sure of that.’
「それはわかっているよ」
[解説]
妻が興奮して、天才的なネコを発見した、とわめいているのに対し、夫はうんざりして、いやみな相槌を打ったところ。それらしく訳さねばならない。
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◆想像力過剰 |
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He had the tight-skinned, concave cheeks of a man who has worn a full set of dentures for many years, and every time he sucked at a cigarette, the cheeks went in even more, and the bones of his face stood out like a skelton’s.
彼は、ながいあいだに、ひとそろいの歯をことごとくすりへらしてしまった男特有の、皮膚がひきつった、くぼんだ頬をしていて、煙草を吸うたびに頬がなおいっそうへっこみ、顔の骨が骸骨のそれのように出てきた。
[解説]
wear は「身に付けている」。a full set of dentures は「総義歯」
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◆語義選択 |
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‘My dear woman! This is a cat---a rather stupid grey cat that nearly got its coat singed by the bonfire this morning in the garden.
おい、お前!あいつはたかがネコなんだよ…今朝、庭のたき火で危うく火傷しかけた、どちらかといえば、たりないねずみ色の猫なんだぜ。
[解説]
rather は、よくないことを修飾する場合「かなり」の訳語を得る。「どちらかといえば」となるのは、(1)rather 〜 than の構文内、(2)前後から「強いてどちらかを選べと言われれば」と読めるとき。
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◆言い習わされている表現 |
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Unskilled labourers
不熟練労働者
The bourgeoisie
中産階級
Those in the Path of Initiation
創造者
[解説]
修正訳 |
「不熟練労働者」→「未熟練労働者」
「中産階級」→「有産階級」
「創造者」→「解脱者」 |
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◆訳語選択の甘さ |
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On the other hand, she didn’t think much of the author’s methods of grading.
ところで、彼女は作者の分類法についてあまり考えていなかった。
[解説]
「考えない」のでなく、「顧慮しない」の意味を採る。
修正訳 |
ところで、彼女は作者の再生格付けに注意を払っていなかった。 |
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◆誤訳 |
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I don’t like to see you making a fool of yourself like this.
おれは、こんな具合に自分で自分を欺いているお前を見るのがたまらないよ。
[解説]
make a fool of oneselfはイディオム「ばかな真似をして物笑いになる」
修正訳 |
君がこんな風にばかな真似をして、人に笑われるのを見たくないよ。 |
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◆訳が稚拙 |
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‘I refuse to get hysterical about it, that’s all.’
「おれは、そんな問題でぜったいにヒステリックになるまいと思っているだけさ」
[解説]
もう少しくだいたらどうだろう。
修正訳 |
こんなことでヒステリックになりたくない、そうおもっているだけさ。 |
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◆語義選択 |
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‘Edward, listen. As you insist on being so horried about all this, I’ll tell you what I’m going to do.
「エドワード、よく聞くのよ。あなたがあんまりいやなことだといい張るんなら、あたしがこれからすることを教えてあげるわ。
[解説]
as は条件でなく、理由。
修正訳 |
エドワード、よく聞いて。あなたがあんまりショックだと言い張るから、私はこれからやろうとすることを教えてあげる。 |
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◆語義選択 |
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‘Here it is. Oh yes, I remember it. It is rather awful.
「これだわ。ああ、そうだ、思い出したわ。これはひどいわ。
[解説]
awful は、ネコと作曲家リストに共通する重大な点(ほくろ)を言っている。
awful はこの場合、悪いことでなく素晴らしいという意味。
修正訳 |
これだわ。そうこれ。思い出した。これってすごいの。 |
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◆誤訳 |
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‘Now, Louisa. Don’t let’s get hysterical.’
「おいおい、ルイザ。ヒステリックになるなよ」
[解説]
Let’s だから自分も妻と一体化している。
修正訳 |
いいかい、ルイザ。ヒステリックになるのは止めよう。 |
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◆イディオム |
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but she took extra trouble
、今日は苦心に苦心を重ね
[解説]
take trouble は「骨折る」「尽力する」。「苦心」ではちょっとずれる。
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◆仮定法の訳ヌケ |
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It would be fun to watch his reaction. It really would.
(それを二ついっしょにサラダにして食べさせることに決めた。)(このあとヌケ)
[解説]
修正訳 |
彼の反応を見るのは楽しいはずだ。ほんとうに早く反応が見たい。 |
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◆語義選択 |
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But the way she was staring made him uncomfortable.
しかし、自分を見る彼女の態度が彼の気持を不安にした。
[解説]
ここは、夫が自分の大事なネコをどうにかしてしまったようなのがわかって、妻が怒りを身のうちに蓄えつつある叙景。「見る」「態度」ともに、もっと強くしないと、このあとに来るであろう夫婦の修羅場が想像できない。
修正訳 |
だが、彼女が自分を見つめる様子が、どうも落ち着かなかった。 |
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