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文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
そんな読者のために、人気小説の翻訳書に見る誤訳・悪訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画『007は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアルド・ダール(Roald Dahl)の短編から任意に選ぶ。いずれも原文で10ページ程の短いものが中心だから、読者も自分で訳してみて、この解説を参考に市販訳との優劣を競ってみてはいかがだろうか。
冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
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誤訳度: |
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致命的誤訳(原文を台無しにする) |
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欠陥的誤訳(原文の理解を損なう) |
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愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲) |
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Mr feasey「フィージイ氏」
最近、田口俊樹の新訳が出たので、間違い箇所がどう直っているのか見てゆく。
前半部が田村訳、矢印のあとの後半部が田口訳
●は両者とも間違いの箇所
ページは田村訳、田口訳、英語原文の順 |
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(P445-188-635)
about every half minute
・三十秒もたつと→三十秒おきに**
extra
・あまりもの→ほかの材料 *
stinging-nettle tops
・いらくさの頭→いらくさの葉 ● ** [解説] いらくさの芽、のこと(食用になる)
例:take the young tops 枝先の新芽を取る
Valentines Meat Juice
・ヴァレンタインの肉ジュース→<ヴァレンタイン>の肉汁 **
he turned and went out again to fetch the dog, …
・そして、こちらにふりむいたかと思ったら→また外に出ようと背を向けたときは ** |
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(P446-189-636)
…, and he moved aside, holding the leashes at arms’ length to give me a better view.
・自分もそばによって、もっと見よいように、皮紐を腕の長さぐらいまで、たぐりよせて
くれた→彼は私に犬がもっとよく見られるよう、引き綱を持った手を目一杯伸ばして脇に
どいた ** |
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(P447-191-636)
Claud knew Mr Feasey was famous for spotting ringers, but he knew also that it could be very difficult to tell the difference between two dogs when there wasn’t any.
・フィージー氏が、不正競技者の摘発にかけて有名なのは、クロウドもよく承知していた
が、この瓜二つの二匹の犬を見分けるなんてことは、とうてい、あの人にできっこないと
いうことも、よく知っていたのだ→ミスター・フィージーが替え玉を見破ることで有名な
ことはクロードも知っていた。が、同時に、寸分たがわぬ二匹の犬のちがいを見抜くとい
うのはきわめてむずかしいことも知っていた。● ***
[解説] どちらか一方しかいない場合、どちらなのか見抜けない、ということ。… when there wasn’t anyはanyのあとに of +名詞(この場合 them)が省略されている。この any は「どちらか」の意。
例:both or any of them(両方かどちらかひとつ)
he stood back
・彼はからだをおこして→そして、うしろにさがって * |
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(P448-191-637)
‘I hope you are right.’
・うまくゆくといいね→きみがまちがってなけりゃいいけど * |
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(P449-192-637)
dry him off
・犬をかわすために→犬の体を乾かしてやろうと * |
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(P449-193-637)
leaning against the stove
・ストーブにもたれかかったまま→コンロ台に寄りかかって ** |
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(P452-196-639)
GONE FOR THE DAY
<祝日につき本日休業>→“本日休業” * |
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(453-197-639)
Afterwards, I went to the bank and drew out the money all in ones
・まもなく私は銀行へ行き、金をまとめてひき出した→それから銀行へ行って金をふたり分まとめて引き出した ● ** [解説]「全部1ポンド紙幣で」 one は、ドル(米)、ポンド(英) |
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(p453-198-640)
just like he knew he was off to the races to win two thousand pounds and a heap of glory.
・レースに出て、二千ポンドの賞金と、たくさんの栄養をかちとることを→まるで自分がこれからレースで二千ポンド稼ぎ、大いなる栄光も勝ち取ることが ** |
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(P454-198-640)
… and Jackie was standing up on the straw in the rear looking over our shoulders through the windshield.
・私たちの肩ごしに、うしろをむいて、窓の外を見わたしていた→私たちの肩越しに、ジャッキーは後部で藁の上に立ち、私たちの肩越しに、さらにフロントガラス越しに前方を見ていた ** |
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(P455-199-640)
…, he talked his head off all the way there and back, …
・いつもなら、窓から首を出したりひっこめたりして・・・喋りつづけたものなのだ→いつもならこうした移動の際には・・・のべつ幕なししゃべりつづけたのだが ** |
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(P455-200-640)
…; and all the things other people had done with dogs, …
・ほかの連中が犬とやったいろんな話→ほかの人間が犬にしてきたあらゆること ** |
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(P456-200-641)
By now, in theory at any rate
・もう今では、理論では→今では理屈だけは * |
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(P457-202-641) ‘Such as anything in the world almost, so long as it makes the dog go slower. And it takes a lot of stopping, a good greyhound dogs.
・なあに、犬の足をおそくさせるだけのことだったら、いくらだってあるさ。すばらしいグレイハウンドだって、たっぷり足どめがきくんだからな→だいたい犬を抑えるのはすごく大変なことなんだ、それがいいグレイハウンドならなおさらね ***
‘if we’re going to do this job properly I’d better tell you a thing or two so’s you’ll know what we’re up against.’
・この仕事をうまくやるんだったら、おれたちがやっちゃいけないことを、お話ししておくのもいいな→このことをちゃんとやるには、あんたにもいくつか教えておいたほうがよさそうだな。おれたちが何に挑戦しようとしているか、あんたにもよくわかってもらうために ** |
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(P458-203-642)
And there’s nothing funny about that,
・ちょっと見には、なんにも仕掛けてないようにな→だからといって、このことに可笑しなところなんかない ** |
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(P462-207-643)
We were over the Chilterns now and running down out of the beechwoods into the flat elm- and oak-tree country south of Oxford.
・ぶなの林を走りおり、ひくい楡と樫の木の国オクスフォードの南部に入っていった→ブナ林を抜けて、ニレとナラが群生するオックスフォード南部の平地に出た * |
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(P466-211-646)
I drove across the field and parked at the end of a line of cars along the top hedge.
前部の垣根に沿って並んでいる→生け垣に沿って並んでいる車の列の最後尾に停めた?the topが意味するところが私にも分からない。どなたかご教示ください |
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(P466-212-646)
Thirty yards beyond the finishing line stood the upturned bicycle for driving the hare.
・ゴールの三十ヤードまえのところに→ゴールラインを三十ヤードほど越えた場所に *** |
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(P467-212-646)
(if the wrong dog looks like winning)
(レースに不正などがあった場合)→(勝たれると困る犬が勝ちそうな場合) *** |
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(P468-214-647)
This dog was led by a tall man with long teeth who wore a dark-blue, double-breasted lounge suit, shiny with wear, and …
・その犬は、長い歯をした、濃いブルーのダブルの服を着た、いかにも弱弱しげな背の高い男に、連れられていた→その犬を連れているのは長い歯をした背の高い男で、着古して、てかてか光っている濃紺のダブルのスーツを着ていた ● **
[解説] 大きい歯をしている、ということ。
例:When he laughs he displays his long yellow teeth.(彼は笑うと大きな黄色い歯がみえる) |
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(P470-217-648) I’ll say this for Claud.
・いやまったく、私もそう叫び出したかった→クロードのために言っておこう ***
田口俊樹、はじめのころは表現も文法力も首をかしげること多かった。まだ間違いはあるが、安定している。歳月は人を育てるのである。続きは次回。 |
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