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文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
そんな読者のために、人気小説の翻訳書に見る誤訳・悪訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画『007は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアルド・ダール(Roald Dahl)の短編から任意に選ぶ。いずれも原文で10ページ程の短いものが中心だから、読者も自分で訳してみて、この解説を参考に市販訳との優劣を競ってみてはいかがだろうか。
冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
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誤訳度: |
*** |
致命的誤訳(原文を台無しにする) |
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** |
欠陥的誤訳(原文の理解を損なう) |
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愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲) |
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『来訪者』The Visitor
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(原文p328---訳文p11)
イディオム:**
For you must understand that thousands of the heroines whom I mention in the diaries are still only half dead, and if you were foolish enough to splash their lilywhite reputation with scarlet print, they would have your head on a salver in two seconds flat, and probably roast it in the oven for good measure.
というのも、日記に登場する何千という美女たちの半数はまだ存命で、お前が無分別にも彼女たちの汚れ泣き令名に背徳という緋色の印刷インクをなすりつけたりすれば、たちどころにお前の首を刎ねて盆にのせ、天火に入れて蒸し焼きにしてしまいかねないからだ。
(コメント)
half dead は「半死の状態で」の意。ランダムハウス英和で「死にそうである」、研究社英和で「死にかかっている」、ジーニアス英和には、The begger was half dead from hunger.(こじきは空腹で死にそうだった)とある。
still は、「現在でもなお」と意外性を示す。only は強調の副詞。
例:I was still only half awake at breakfast.(朝食のときはまだ半分しか目が覚めていなかった)
下線部は「(何千人ものわがヒロインは)まだ半死の状態でしかない」→「どうにかこうにかどっこい生きている」
確かに、流れからすると「半数が存命」と読みたくなるが、無理ではないだろうか。「数、量」を言うのなら、only half the heroines are deadとかonly the half deadとかになろう。
参考例をいくつか:
I have only read half the book.まだ半分しか読んでません。(量)
The burnt boy was only half alive. (やけどした少年は半死半生だった)(状態)
The concert was only half booked. (その音楽会は半分しか埋まってなかった)(状態)
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(原文p330---訳文p14)
文意:**
At the time of the Sinai episode, Oswald Hendryks Cornelius was fifty-one years old, and he had, of course, never been married. 'I am afraid,' he was in the habit of saying, 'that I have been blessed or should I call it burdened, with an uncommonly fastidious nature.' In some ways, this was true, but in others, and especially in so far as marriage was concerned, the statement was the exact opposite of the truth.
シナイ砂漠の話のころ、オズワルド・ヘンドリクス・コーネリアスは五十一歳で、言うまでもなくそれまでずっと独身を通していた。①「思うに」と、彼は繰りかえし述べている。「わたしは並はずれて気むずかしい性格に恵まれていた。それともこれは重荷というべきだろうか」 ある意味でこれは②真実だが、ほかの点では、③とりわけ結婚に関して言えば、この言葉はまったくの嘘っぱちだった。
(コメント)
① |
懸念材料として自分の「きわめて厳格な性格」を述べているよう訳す
彼は繰りかえし述べている、「わたしは幸か不幸か生真面目な性格に生まれついていると思う」と。 |
② |
true は「事実と合致していること」。
「真実」というと大げさに聞こえることがある。→「合っている」。 |
③ |
こと結婚に関してこの発言内容は事実と正反対である、といっている→
「こと結婚に関する限り、生真面目などとは程遠いのであった。」 |
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(原文p330---訳文p15)
反語:*
He was not even a normal polygamous man. He was, to be honest, such a wanton and incorrigible philanderer that no bride on earth would have put up with him for more than a few days, let alone for the duration of a honey-moon—although heaven knows there were enough who would have been willing to give it a try.
まともな一夫多妻主義者ですらなかった。率直に言うならば、彼は気まぐれで度しがたい漁色家であり、ハネムーンの期間はおろか、ほんの数日でも彼に辛抱できる花嫁はどこにもいなかっただろう—もっともそれでも彼との結婚を望む女はいっこうに跡を絶たなかったのだが。
(コメント)
heaven knows は相反する二つの意味を有する(1) 「誰も知らない」 (2) 「確かに…だ」。 enough who は enough those who の略形。
未来完了進行形(時制の一致で will が would になっているが)はその時点までの動作の継続を表す。be willing to do は「(積極的にしたいわけでもないことを)快くやろうとする」こと。give it try「それ(結婚)をやってみる」。
あとは(1)と(2)のどちらが、読者に納得がゆく説明かということだ。私は(1)をとりたい
「もっともあえて彼と結婚しようなどという気になるご婦人が充分にいたかどうかは知らない。」
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(原文p331---訳文p17)
連関詞:***
His collection of spiders, or more accurately his collection of Arachnida, because it included scorpions and pedipalps, was possibly as comprehensive as any outside a museum, and his knowledge of the hundreds of genera and species was impressive.
蜘蛛の蒐集、というより蠍やムチサソリも含まれるので、蛛形綱というほうがより正確なのだが、その蒐集は博物館以外のどんなコレクションにもひけをとらないほど広範囲にわたっており、その何百という種類に関する知識たるや人を驚かすに足るものだった。
(コメント)
この outside は口語的な形容詞で「最高の」
例:an outside price (最高の値段)。a outside museum (最高の博物館)であるはずが、as に引っ張られ a の前に出る too、so、as+形容詞+a +名詞の形。
例:It's too good a story to be true.(本当にしては話がうますぎる)
「どんな素晴らしい博物館の」
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(原文p337---訳文p28)
文意:*
The staff was just beginning to stir. I stirred them up some more and got the best room available.
従業員がようやく起きだしたばかりだった。わたしは彼らの眠気を追い払ってやり、そこで最上の部屋を手に入れた。
(コメント)
間違いではないだろうが、これでは「何をして?」が問われてしまう。stir up は多義だが、 some more (もっと)とのつながりから「目覚めさせる」の意を出したほうがよいだろう。
「彼らを促して」
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(原文p339---訳文p32)
訳語選択:*
Then I put my white topee on my head, and eased myself slowly out of the car, out of my comfortable hermit-crab shell, and into the sunlight.
それから白いヘルメットをかぶって、快適なヤドカリの殻の中から強烈な陽ざしの中へ、ゆっくりとおり立った。
(コメント)
「ヘルメット」では工事かオートバイ用のものをイメージしてしまう。
topee は「ヘルメット型の日よけ帽子」ショウ(インド産のマメ科の植物)の芯で編んだ帽子
「日よけ帽」
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